検索タグ:
|
評価数:1 |
|
|
「は~い、ベイベー♪、幸せですかあ~?」は私が文中もっとも印象に残った言葉である。
この物語の軸である高校生活最後の行事として位置付けられている全校生徒が朝8時から翌朝8時まで全行程80km歩行というお話、想像しただけで過酷なものだとわかる。数時間の仮眠を挟んで前半が団体歩行、後半が自由歩行という唯々歩くだけの行事なのです。で、登場人物たちはそれぞれ密かな目的を持ってこのイベントに参加します。これが不思議な事に読み進めるうちに自分も一緒になって歩いているかのような感覚になってワクワクしてくるのが非常に面白い。
日中の太陽が照りつける熱い中の歩行は体力もあるうちは和やかにそれぞれ友達同士で進学のことを話したり、日常の他愛のない会話に花を咲かせます。でもって、このただ歩くだけの話に飽きずにさらに引き込まれてしまったのは作者のストーリー性の力強さと人物描写の多彩なところだったと思うのです。
主人公である二人の高三の男女、西脇融と甲田貴子の関係、それぞれの無二の親友とクラスメート達、彼らに思いを寄せる者たちが織りなすクライマックスともいえる夜間の自由歩行。人物同士の心の葛藤や、人間の持つ優しさ、寛大さ、怒り、それと友情の本質といったものがものの見事に描かれているのです。
この本のエピソードの中に「本を読むタイミング」というものがあって…。私も本書はまさにそんな本だと思います。ああ、もっと早く読んでおけば良かったと時間がもう過ぎてしまった者は記憶をたどる懐かしさで、今まさに高校生活を謳歌している者は共感し後悔のない様にと、これから迎える者は希望と憧れを抱いて…。
そんな世代間をも越えて読まれる永遠の青春小説ではないかと思います。こまかいことはさておいて―ではでは、あなたもこの物語にどっぷりと思いを馳せて思いっきり青春してくださいね。